「智樹」

 言いながら背中に凭れる可愛い人に頬が緩んでいたのは、いつまでだっただろうか……

「ねえ智樹、何考えてるの?」

 今はもう重くて仕方がない。
「別に何も」
 ふふと笑いながら、彼女──愛莉が背中に頬を擦り寄せる。
「ねえ智樹、私の事好き?」
「……好きだよ」

 その言葉にじゃれるように益々しがみつく愛莉。
「嫌、もっとすぐに言ってよ。あともっと情熱的に」

 くすくすと笑い声を立てる愛莉への溜息を、ぐっと飲み込む。
「私たちって運命的よね」
「そうだね……」

「ずっとずっと一緒だったのに、上京してから結ばれるなんて、ロマンス小説みたい」
 うっとりと口にする彼女のその科白は、何度目だろうか。

 小説みたいと愛莉が喜んでるのは、俺に彼女がいた……というところだろう。
 多分それが愛莉に火を点けた。
 彼女のいる相手から選ばれる女性。それこそ小説のような恋だと、胸を高鳴らせたのだろう。
 ……ヒロインに憧れる彼女。