数日後、ミラルカを通じて出掛ける日が伝えられた。

 もうドレスも出来上がっていて、あとはその日が来るのを待つだけだ。

 ミラルカもルーシーも楽しみにしていて、会うたびその話題で盛り上がっている。

「それにしても、あの旦那様がダンスを教えるなんて。もう私は感動して感動して……」

「そうですよね。旦那様ってまあ、そんなガラじゃないというか……どうでした? レッスン」

 ルーシーに突然話を振られて、エルは戸惑っった。どう答えればいいかわからなくて「楽しかったです」、とだけ紙に書いてみせた。

「そうですか、楽しいならなによりですね」

「当日は目一杯オシャレしましょうね! 実は今日、宝石商を屋敷に呼んでいて────」

 ルーシーとミラルカは相変わらずその話題で盛り上がっていた。

 だが、エルは浮かない気分だった。

 社交界に行くのは楽しみだ。ドレスも楽しみだし、どんな世界か気になる。けれど不安だった。それは、恥ずかしいとかそういうことではない。

 こんな気持ちでいる自分が、ネリウスのそばにいてもいいのか。ネリウスに悟られやしないか、それが心配だった。

『少し散歩に行ってきます』

 エルは紙に書くと、気持ちを落ち着けるために庭へ向かった。



 庭は静かだった。ファビオは仕事をしているだろうか。姿が見えない。

 ベンチに座って空を見上げると、先ほどよりも落ち着いてきた。

 けれどふと、そこにあるそれの存在に気が付いてしまう。花はすっかり落ちていたが、エルはその花の姿を鮮明に覚えていた。そして、それに付随するネリウスのことも。

 ────私、ネリウス様のことばかり考えてる。

 以前からそうだったが、今はその時とは違うような気がした。ネリウスの姿をはっきりと見て、視線を交わして、声を聞いて────。

 ただの憧れとは違う。もっと別の感情だ。

 それがなんなのか、なんとなく気付きつつある。けれど、気が付かないフリをしている。

 エルは庭を眺めるのをやめて立ち上がった。

 いつまでもここにいると余計なことばかり考えてしまう。期待する気持ちを押し込め、屋敷に戻った。