ミラルカとエルは、天気のいい日を選んでベッカー邸の敷地内にある大きな湖に向かった。

 初めて見る湖はとても美しかった。太陽の光でキラキラと輝いていて、水は澄んでいて冷たい。魚も泳いでいた。

 エルは興奮した様子で湖の水面に顔を近づけた。その様子を、ミラルカとジャックは少し離れた位置から見守った。

「本当、いいお天気でよかったわ。お弁当でも食べましょうか」

 普段の食事もエルにとっては豪華だったが、今日のランチもそれと変わらないくらい豪勢だ。シェフの作る食事が美味しくてエルの痩せた体はようやくやっと普通に戻りつつあった。

「旦那様も来れたらよかったんですけどね。シャイだから仕方ないわね」

 ミラルカは不服そうに溢した。

 エルはてっきりネリウスも来るものだと思っていたが、仕事があるらしく来ないそうだ。

 あの晩餐から、ネリウスとは一度も話していないし、手紙のやり取りもしていない。エルにとってネリウスはまだまだ理解できない人物だった。

「私以前、エル様に大奥様のことを話したでしょう?」

 ミラルカが突然話題を変えた。エルはそのことを覚えていたので頷いた。

「私思うんです。旦那様はきっとエル様のことを、亡くなった大奥様に重ねているんじゃないかって……だからエル様にお優しくなさるんだわ」

 目が似ている話は以前聞いた。緑色の瞳が「大奥様」と同じだと。

 確かにネリウスはとてもよくしてくれる。母親に似ているのなら、優しい理由も納得できた。

「大旦那様と大奥様が事故で早くに亡くなってしまって……旦那様は天涯孤独になりました。侯爵の地位を継いだし、頭のいいお方だからよかったのですが、それでもやっぱり寂しいはずです。だから、エル様を見つけた時にきっと……」

 ミラルカはそこで言葉を止めた。

 エルはネリウスの身の上話を聞いてとても気の毒に思った。

 自分は気が付いたら親がいなかったが、この世に自分が一人ぼっちで、誰にも助けを求められない寂しさはよく分かる。

 ネリウスもそんな寂しさを味わってきたのだ。