「ねえ、ノア……。その……もう大丈夫だから……」
「…………」

 抱きしめられたルルは小さな声で言った。けれど、ノアはうんともすんとも言わない。暖炉そばのソファでルルを腕のなかに閉じ込めてから、もう一時間もじっとしている。

 ルルの手を引いてお屋敷に帰ってきたノアは、息つくまもなく二階に上がり、キルケシュタイン博士のものとは違う部屋に入った。
 花柄の壁紙がはられた客室だった。女性向けなのか家具はすべて白く、金の縁取りや取っ手がかわいらしい。

 ルルが部屋を見て回っているうちに、ノアは暖炉に火をくべて、荷物から新しい毛布を引っ張り出した。
 名前を呼ばれて近づくと、ふわりと毛布を回されて引き寄せられ、あっという間にソファのうえだった。

「ノア? ねえ、いったいどうしたの?」
「…………腹が立っています。自分に」