カレンダーを1枚剥がすと、またひとつ空気が変わった。


長期休暇のせいでうすぼんやりとした頭のまま、パジャマからギンガムチェックのブラウスと藤色のスカートに着替えて、鏡で全身を確認する。


『上も下も空の場所がある。』


渚からそんなメッセージが届いたときはなにそれと怪訝に思ったけれど、好奇心に釣られてつい、『連れて行って』と返信してしまった。

上も下も空というのは、一体どんな景色なんだろう。真っ先に思い浮かんだのは昔写真で見たウユニ塩湖だけど、空を反射する平原なるものは、私の知る限り近くにはない。

まぁ考えたって仕方ないしと、鞄を引っ掴んで家を出た。


萌ゆる若葉をすり抜ける木洩れ日と薫る風が五月を語る上側の空は、雲ひとつない晴天だ。

そんな絶好のお出かけ日和の道を歩いていると、花の咲いていない桜並木に差しかかった。


桜、もう散っちゃったのかぁ。早いなぁ。


最近、桜を見るたびにあの日のことを思い出す。それはもう、飽き飽きしてしまいそうなほどに。

それくらい、衝撃的な出来事だったから。


きっとこれからも、ふとした瞬間に思い出してしまうのだろう。

そんなことを考えながら足を動かしているうちに、待ち合わせ場所に到着した。