文化祭ムードが抜けてきて、過去最高難易度と噂された中間テストもどうにか無事乗り切り、竜胆やマリーゴールドなどのこっくりとした色合いの花が、遅い見頃を迎えた朱色の鬼灯と共に街を彩る晩秋の日のこと。


「ねぇ、今日がなんの日か覚えてる?」

ようやく前と同じように話せるようになった渚に、真剣な顔でそう問われた。

「えー、なんだったっけ……」

小首を傾げて、今日の日付に渚の誕生日や年間行事を当てはめてみたけれど、思い当たる節はない。

「わかんない。正解は?」

諦めて降参の意を示すと、渚に「信じらんない」と露骨に呆れた顔をされた。


「『シュティレ』のアルバム発売日だって!」

「あぁ」


その一言で、ようやく思い出した。

シュティレというのは、以前渚に勧められた男女混合のバンドのことで、思春期の少年少女の心情を巧みに表現した歌詞と、何処か憂いを帯びたように切なげな女性ボーカルの歌声が人気を博している。

あまり音楽に関心がなかった私も、一瞬でその世界観の虜になってしまったのだ。