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日野の顔を見ていると別れてくれだなんて言えなくて素っ気ない態度を取ってしまう。手作りのお菓子をもらう度に罪悪感が蓄積する。

初めてもらった時は気持ちが重たくてクッキーを捨ててしまおうかとさえ思った。はっきりしない自分が悪いのだからと一つ口に入れると美味しくて結局全部食べてしまった。

いつの間にか部活の後に日野の持ってきたお菓子を食べることが当たり前になって、マンガを読ませてもらうことが日常になった。

今までは目立たないクラスメイトなんて卒業まで話すこともないものだと思っていた。なのに日野のことを意識しているからやたらと視界に入る。

彼女は誰かの悪口を言うこともなく、俺なんかにも気を遣ってくれて、好きなものの話をするときはよく笑う。
料理部だからお菓子作りが好きなのかと思っていたら、家でもよく夕食を作るらしい。本人に聞いたわけじゃなく翔が香菜を通して聞いた話だ。

バスケ部の翔と帰りの時間がかぶり、翔は話があるからとバス停には行かずに俺と駅まで歩き出した。

「蒼、お前やっぱ罰ゲームで告ったって日野さんに言ってないのか?」

「いや、その……」

「俺香菜に聞かれたんだよ。肝試しの後の告白は罰ゲームじゃないよね? って」

「本当のことを香菜に言った?」

「言うわけないだろ。香菜に言ったら日野さんに伝わるんだから」

翔が黙ってくれていることにほっとする。

「罰ゲームだってバレたくなさそうなのは蒼が告ったらOKされちゃったから?」

「はぁー……そうだよ。言う機会を見誤った」

「お前アホか。なんでその場ですぐに言わなかったんだよ」

「分かりました付き合いましょう、なんて言い返してくると思わなかったんだよ。少ししたら別れを切り出すつもり」