風と混ざって聞こえてくる夏の音。

日差しを照りつけたアスファルトが熱い熱気を漂わせている。

どこを見ても陽炎が揺れていて、蝉の声は止むことを知らない。

毎日が晴天で、空に浮かぶ入道雲を見ていた。


昔っから、なのかはわからないけど、どの季節もあまり好きではない。



「うわぁーー!!!!」



道路のど真ん中で、自分が出せる最大級の叫び声をあげた。

如月 伊緒(きさらぎ いお)。年齢不詳。幽霊が道路のど真ん中で叫び声を上げてますけど。

幽霊、道路のど真ん中で叫び声をあげる。



「ふっ、なんかウケる」



じゃない、何笑ってんだ。

手を振っても、ジャンプしても、車を蹴っても自動車はぼくを透けて通り過ぎていく。

周りの人たちも、ぼくに見向きやしない。



「あぁ、もう……」



その場にごろんと寝転がった。

本来なら車に敷かれてピーポーピーポーだっただろうけど、透けてしまうからしょうがない。


いつからこんな姿になったかなんて知らない。


いつからこんな世界が嫌いなのかも知らない。


ただ、ぼくは女なのに「ぼく」と言っていることと、自分の名前しか知らない。

ぼくは何も知らない。分からないんだ。



「ねぇ、

──────独りなら、一緒においでよ。」



だから、僕に生まれたこんな感情も、本当に何一つ知らないんだ──────。