10 あなたと初めて向き合った日。




もう会わない方が良い。奏は最後にそう言い残した。
過去は変えられないと言って。 そこにあった絆を解いていくように、私の腕を離した。

何も知らなかった。
奏が今まで何で苦しんできたとか、どういう気持ちで日本を出たのか。
そして駿くんに私を託す時どんな気持ちだったかなんて。

そうした中でひとつの疑問が頭を浮かぶ。

駿くんは何故、奏を助けてくれなかったの?たとえ半分しか血が繋がっていなかったとしても兄弟には違いない。

両親が離婚をした後も、あんなに仲の良い兄弟だったのに…。駿くんからお父さんに掛け合ってくれたのならば、奏はもしかしたら大学を辞めなくってすんだかもしれない。一緒に高瀬コーポレーションを継げていたかもしれない。

私の中の駿くんは愛情の溢れている人。それは恋人の私に限った事ではなく、誰に対しても正しく優しい。それが自分の弟ならば、なおさらだ。

駿くんはきっと奏の事情を知っていた。けれど私に何一つ告げる事はなかった。