みんな診察室へと消えていき救急外来の待合に1人残された私は、周囲からの好奇の視線にいたたまれなくなり病院の外へ逃出した。

もちろん、今ここで逃出すことが良くないのは分かっている。
どう考えても男性の怒りの矛先は私のようだし、よく思い出してみれば、指摘されたような言葉を言った記憶がある。
当事者である以上、本当は私が説明をするべきだと思う。
でも、研修医である私にはそんなことは許されない。


救急外来の出入口から出て、駐車場の一角にある小さな緑地のベンチに腰を下ろした。

「でもなぁ・・・」
つい口から漏れる。

どうして、「大丈夫ですよ」なんて言ってしまったんだろう。
それは、男性が言うような誤診ではなく、不安に思っている患者を励ますための言葉だった。
実際、あの時点で流産や急変を想像する事はできなかったし、誰の責任でもない。
それでも、人の命に関わることならもっと慎重になるべきだった。
やっぱり、私はこの仕事に向かないのかもしれない。

ポンッと、足元の石ころを蹴った私。

「クソッ」
あんまり悔しくて、汚い言葉が出てしまった。

ガサゴソとカバンの底から取り出した小さなポーチを両手で握りしめ、
フゥー。
1つ肩で息をした。