【笹川将也side】
ーカランコロン…
「いらっしゃいませ。」
いつも通り一花のいるお店に向かう。
でも出迎えてくれた声は一花とは違う。
「…あれ、一花…、…いないんですか?」
「…宮川さんの知り合いかな?」
「いつも接客してくれてました。」
「なるほど…彼女なら今日は体調不良で休みだよ。」
「体調が?」
「全く、代わりの人間を用意できないなら出勤すべきだろう。全く、最近の若者は…」
…?
体調が悪いならそれを補うのがオーナーの役目だろ?
なんで一花が悪いみたいな言い方をしているんだ?
「常連さんにも言われるよ。
宮川さん、ここで働き始めた当初と比べるとかなりやつれたって。」
「…」
「まるで僕がこき使っているみたいだ。」
…実際こき使ってんだろ…
「…ご馳走様でした…」
…一花が体調を崩した理由がわかった気がする…
こんなオーナーの元で働いていたらそりゃ体も崩すよ…
一花、大丈夫かな。
体調が悪いなら家にいるかな。

「ー…きて、しまった。」
いてもたってもいられず車を飛ばして一花の住んでいるアパートへ来てしまった…
途中でスーパーに寄ってゼリーやキウイなどの食べやすそうなものを購入。
「…流石に…キモイか?」
…ここまで来たからには…やけくそだ…
勢いでインターホンを鳴らす。
ーピンポーン…
…体調悪いのに申し訳ないな…
ーがちゃ…
「…え?」
玄関の扉が開かれて一花が現れた。
部屋着でパーカーを羽織り、熱があるのか顔が赤い。
焦点も合ってない。
「…将也…?」
「ごめん、心配できちゃった。」
「…いいよ、上がって…」
お言葉に甘えてお邪魔する。
一足先に中に入っていた一花は何故か窓を開け、換気扇を回している。
「一花、何してるの?」
「…移すとダメだから…換気……」
「俺の事は気にしなくていいから。」
体が丈夫なことだけが取り柄なんだ。
「…」
一花はぼーっとしていてかなりフラフラの状態だ。
「…病院は?」
「…風邪だから…市販の薬飲んでる…」
テーブルを見ると市販の薬局で売っている風邪薬が水とともに置かれていた。
「ご飯とか食べた?」
「…食べる気にならないから食べてない…」
一花はふらつきながらベットへ足を進める。
「…おっと…」
あと数歩のところでバランスを崩して倒れ込む一花。
「大丈夫か?」
「…平気…」
虚ろな目で俺を見る一花は本当に辛そうだ。
「…いやでも我慢しろな。」
俺は一花を抱き上げる。
「えっ?!」
そのまま一花の布団に向かい、そろりと降ろす。