雨粒と強風がびりびりと窓を叩く音と、天井裏でなにかがうごめく気配だけが、狭い部屋に響いている。

けして心地のよい空間ではないのに、左肩にあたたかい重みがあるだけで、ずっとこのまま聴いていたいと思ってしまう。


抱きしめられる近さのいとしいぬくもりに安堵してちいさく息を吐くと、胸もとのブランケットがすべり落ちた。

手をのばして元に戻す前に、作り物のような長い睫毛がふるふると揺れて真白い瞼がゆっくり上がる。

足もとでぼんやりと灯るランプに照らされて眩しそうに細まる、月のような黄金の瞳。


ああ、とても、きれいだ。






「起こした?」

「……ううん、だいじょうぶ」


眠っているとは思っていなかったけれど、なにかの儀式のようにぼくはたずねた。言葉が嘘か本当かは些細なことだと思った。

肩にのった温度さえ確かなら、あとのことはすべて、いまは大切じゃない。


「そっか」

それだけ告げて、ぼくはまた口を閉じた。彼女はじっと暗い橙色のランプを見つめていた。


嵐の夜に似つかわしくない満月がふたつ、ひかっている。