7話「イヴ・シャンテマリー」



 次の日も菊那は樹の花屋敷に向かっていた。自分が行っていいのか?とも思ったが、樹の方から「同席して貰えませんか?」と、言ってくれたのだ。理由は、「男の私だけより、優しい菊那さんが居てくれた方が、紋芽さんが安心すると思いますから」と、言っていた。
 菊那も紋芽の事を心配していたので、ついて来てもいいと言われるとホッとした。それに樹の事も気がかりだった。

 確かに樹は自分のために花を取り返そうとしたのだろう。けれど、怖がられるらほどに紋芽を叱ったのだ。人の事を叱ってくれる人はとても重要だ。誰だって怒りたくない。他人から嫌われるし、恐れられるのだから。
 それでも紋芽を叱ったのは彼の優しさなのだろうと菊那はわかっていた。けれど、樹にそう話しても「自分の事を優先しただけです」などと言いそうなので、菊那はこの気持ちを胸の奥底に閉じ込めておこうと思った。

 けれど、紋芽はわかってくれているだろうか。ただ怖いと思ってはいないか。紋芽はしっかりした子だと理解はしているものの、子どもの頃に叱られた記憶は「怖かった」という記憶が多いような気がしてしまったのだ。


 「………私何にも役に立ってないな。ただニコニコしながら紋芽くんの隣に座っていただけだ」


 今、思えば樹は彼の事を「紋芽さん」と呼んでいた。呼び方さえも対等に扱っていたのだとわかると、自分はどうだったか?と振り返って溜め息が出てしまう。
 全然駄目だ。と、自分の考えの甘さに恥ずかしささえ覚えてしまう。



 「………明日はしっかりしないと。………紋芽くんが少しでも安心出来るようにしないと」


 と、思いながらも自分はどうすればいいのか、考えつづけたけれどいい案が出ないままに夜が深くなってしまったのだった。