泣きそうな目が


冷たい言葉が


まるで頬を引っ叩かれたような気分にさせる。



普結くんが居なくなった後、

何分経ったんだろう。


あたしはずっと動けなかった。



「……八宏先輩」


名前を呼ばれて反射的に顔を上げる。


「…あ、
今何時?」

「もう17時半っすよ
みんな帰ってます」

「…そっか」


頭がぐちゃぐちゃのまま、
鞄を手に取る。

ふとした瞬間に普結くんのあの顔がフラッシュバックするから、
かき消すように手を動かした。


「俺も一緒に帰っていいっすか?」

「ああ、うん…いいよ」


ふらりと教室を出たあたしを追いかけた鳴海くんは、あたしの半歩後ろを歩いている。

正直、今は一人にして欲しかったけど


鳴海くんは気を遣ってずっとついててくれたんだからそんなこと言えない。

夕焼けのグラウンドを見ながら渡り廊下を歩いた。

日が傾きかけた夏の空は、やけに赤い色をしている気がする。



「先輩、柚山先輩のこと好きなんですか」

「………好きじゃない」


必死で出した答えは、
自分でもびっくりするくらいに細い声だった。