大学の成績が良く 人当りも良い智之は 

大手の 総合商社から 内定通知を受け取る。


祖父が創業し 父が受け継いだ 廣澤工業。


安定した経営の 優良企業だったけれど


智之が 内定した企業とは 比べものにならない。
 


「すごいな、智之。エリート商社マンじゃないか。」

兄は 素直に賞賛してくれる。
 
「まだエリートじゃないよ。」

少し照れて でも誇らし気に答える智之に 両親は 温かい笑顔を送る。
 


「智之が 一流商社に受かっただけで 紀之にも 箔がつくよ。」

穏やかな 父の言葉に 
 
「何だよ、それ。」

と智之は笑う。
 

「社長の息子は 優秀なんだって みんなが思うだろう。」

父が言うと、
 

「何か 失礼に聞こえるのは 気のせいか。」

と兄は 明るく言う。



この明るさに 家族みんなが 救われていることを 智之も気付いていた。
 


何故 俺は 兄のように 大らかに なれないのだろう。


兄の心に 穴は 無いのだろうか。

俺は どこで 心に 穴を開けてしまったのだろう。


同じ家庭で 同じように 育ったはずなのに。


この穴は 一生 塞がらないのだろうか。




そんな時 麻有子に会いたいと 智之は強く思う。