──出勤して早々、一番乗りの佐野さんに「目の下のクマすごいですよ」と言われた。

朝なのに化粧直しに席を立つと、トイレの鏡に映る私の目の下には確かにくっきりとクマが落ちていた。
朝は慌てて化粧をしたから気付かなかったらしい。

念入りにファンデーションを重ね、隠蔽する。

都筑さんが来たら何か言われるだろうか。
昨日はどうして逃げるように帰ったのか、どうして夜の電話に出なかったのか、って。

だって仕方ないじゃない、認めたくないけど、ショックだったのだ。

三度目の正直だと思って告白を受け入れようとしたのに、あんな仕打ちをされたんだもの。
クマができる程度には、ショックで眠れなかった。

鏡に映る顔からはクマは消えたのに、まだ表情は暗くどんよりとしている。

昨日はずっと考えていた。

都筑さんと私のこと。

……あの女の子は、恋人じゃないとは思う。
さすがに堂々と二股をするほど都筑さんも非道ではないし、もしかしたら本当にただの後輩なのかもしれない。

でも、あんなツーショットを見せられては、私の自信なんて地に落ちるものだ。

あの子に勝てるところが見つからない。
強いて言えば、“秘書” だということくらい。

だから私は、今日もスクエアなカジュアルスーツに身を包み、完璧な秘書であろうとしているのだろう。

これが私の唯一の、誰にも負けない都筑さんとの絆だから。