7月29日、午後2時。

1年前と同じメンバー、同じ駅、同じ時間に待ち合わせをした。

夏帆ちゃんは去年とは違う白地に赤と黒の金魚が描かれた浴衣を着てきた。

私はというと、中学2年生で成長が止まってしまってからというもの、毎年同じ紺地に紫色の紫陽花が描かれた浴衣だ。

1年に1度この日のために高いお金を出して用意するという気合いもない。

慣れ親しんだメンバーと行くと分かっているから特別感はないし、もっと可愛くしなきゃという向上心もない。


「夏帆今年も可愛いな!」

「あ...ありがとう」

「それに引き換え碧萌は毎年同じやつかよ」


海くんに文句をつけられたけど、さほど気にもならない。

しかし、たっくんがすかさず私に歩み寄ってきて言った。


「碧萌も良く似合ってるよ。さ、混むといけないからもう行こう」


たっくんが私の腕を強引に掴み、ずんずんと前に進んでいく。

なんかたっくん怒ってない?

海くんが私のことを貶したから怒ってくれたのかな。

そんなのいつものことだから気にしなくていいのに。

私はたっくんに掴まれた右腕を眺めて思う。

やっぱりドキドキはしない。

颯翔くんは特別だった。

少しでも近くに来るだけでふわっといい香りが広がって私の心に染み込む。

触れられたならば、忽ち淡くて甘い気持ちになる。

そんな気持ちをもう持ってはいけないなんて辛すぎる。

でもどうしようもないんだ。

私はもうどうすることも出来ない。

私は下駄をカラカラ鳴らしながら前に進んでいったのだった。