一夜明けるとメレはカガミを通じてブラン家に戻り、地下に建設された研究施設にこもっていた。鏡の先はエイベラのキース低へと繋がっている。
 カガミの向こうで連絡を取る相手はノネットで、エセルの配下が屋敷を訪ねて来たというのだ。メレの不在を伝えはしたが、それでもマークが外れていないそうだ。既に綺麗な婚約者がいるというのに呆れてしまう。

「エセル・シューミットの件は引き続き放置。警戒は怠らないとしても、こちらから動く必要はないわ」

 この勝負に勝てば元の生活が待っている。さすがに領地まで追い回すような真似はしないだろう。しても撃退してくれる。

「イエス、メレ様! メレ様には近寄らせません。僕は鉄壁の守備です!」

「頼もしいわ。さっそく本題に移るけれど、ノネットは白薔薇祭りを知っていて?」

「噂くらいは耳にしていますが詳しくは……。手の内に情報がないのは厳しいですね」

「……あまり当てになる気はしないけれど、ここはエイベラ在宅の友人に話を聞いてみようと思うの。離れて、そっちへ行くわ」

 カガミに命じてキース低へ戻った。家中のカーテンは閉め切ってあるのでエセルに感づかれることもない。

「フライパンとお玉、使います?」

 何故か用意されている調理器具。明らかに本来と違う用途で差し出されている。

「騒音ごときで起きてくれないから困りものよ。そういえばキースの使い魔たちはどうしているの? ここへ来てから一度もエリーたちを見ていないわ。やけに静かじゃない?」

 天井にぶら下がっていた使い魔たちの姿を想像する。

「エリーたちは帰省中だそうですよ。あまりにも休暇がもらえずストライキ、からの一年休養をもぎ取ったそうです。あ、これカガミさん情報なんで確かですよ!」

 部屋を訪れたメレは自称棺の精こと吸血鬼を引っ張り出し、間髪いれずに説教を始めた。

「呆れた。使い魔にストライキ? 貴方何をしたの! いいえ言わずもがな。何もしていないのね!」

「寝起きにメレディアナの説教とか、きつい」

 棺桶から引きずり出されたキースは血色の悪い顔で嘆く。