夜会から一夜明け、慣れない人に寄ったキースは棺の中である。彼なりに奮闘してくれたことを理解しているのでメレも今日ばかりは目を瞑っていた。
 次の勝負までには猶予があるため、メレはノネットに用意させておいた商会の資料を読み漁り仕事に励んでいる。
 ひと段落し肩の力を抜いたところで見計らったように玄関のベルが鳴った。

「どなたかしら……。キースに客人――いえ、それはないわね。想像できないもの」

 訪問販売かと不審がっていると再びベルが鳴らされた。
 家主に来客の対応など期待してはいけない。案の定キースは現れず、ノネットもブラン家に戻っているので頼めない。本来数日で帰る予定が長期戦になり、着替えや化粧水が足りないのだ。
 仕方ないと腰を上げ、愛想良くドアを開けたメレは無言で表情を失くす。

「何故ラーシェルが立っているのかしら? 家を間違えていてよ。精霊にもうっかりというものがあるのね」

「主より手紙を預かっております」

 それなら仕方ない。差し出された物を不満げに受け取ると封を切る。これが三戦目の内容を知らせる手紙だろうと信じて目を通したのだが。

「見なかったことにしましょう」

 名案だ。一瞬で手紙を炎上させ灰が舞った。

「念のためもう一通ございます。必要でしたら口頭で一言一句違わずお伝えすることも可能ですが」

 ラーシェルの懐からは同じ封筒がちらついている。

「親愛なるメレディアナ――」

 先ほど読んだ手紙の書き出しに、何が親愛だと憤る。そもそも口頭で伝えられるなら手紙必要ないだろうと虚ろな視線を送った。

「勝手に音読を始めないで。さっさと帰りなさい」

「そう言わずに。返事をいただかなければ帰れないのです。そういう命令ですから」

 要約すれば、妹であるカティナの誕生日が近く、プレゼント選びに付き合って欲しいとの要請だった。