この手に在るのは、いずれ魔法史に語り継がれる(予定の)偉大な魔法。

 輝かしい未来を想像すれば、磨き上げられたそれの表面には、愉悦に浸る女の表情が映った。

 優れた功績には芸術的な見目が相応しいと、それを器に選んでのことだった。
 だが自らの仕事ぶりに酔いしれていられたのは実に短い時間である。

「ああ、なんてこと……」

 形の良い唇から零れたのは絶望だった。呟きは重く、いつしか蝋燭に照らされた表情は深刻なものへと変わっていた。常ならば強気と評される眼差しも暗く濁っている。

「こんな失態、わたくしの経歴に傷が付く。偉大な魔女として君臨するメレディアナ・ブランにあってはならない失態よ。早急に、迅速に、全力で抹消しなければ!」

 それほどの事態とは。
 すなわち非常事態。そして緊急事態である。
 絶望に屈した魔女は地に伏す――もといテーブルに伏した。勢い余るほどの衝撃に花瓶が倒れなかったのは奇跡である。
 そうしたかと思えば俊敏な動作で頭を上げるのだから忙しない。しかし名案を思い付いたのであれば、それも仕方のない事である。

「そうよ! いっそ世界を滅ぼして全部なかったことに!」

「なるかー!」

 スパアーン! 

 激しいツッコミと景気の良い音が響いたのは同時であった。