春が来た。桜の花は満開で、
空はとても鮮やかな青に染まる。


白い大きな箱へと続く桜並木の坂道を、
私は足早に歩いていた。


パリッと皺が伸ばされた制服に身を包み、
棒付きの飴玉を咥えて、颯爽と足を前に出す。


自転車を押している集団に追い抜かれてしまったけれど、
焦ることはない。まだ時間は有り余っている。



立ち止まって空を仰ぐと、
飛行機雲が清々しいほどくっきりとその線を伸ばしている。


カバンからスマホを取り出してその線へとピントを合わせた。


ピロリン、と可愛く音が鳴って、
目の前に広がる空が写真となって画面に表示される。


その出来栄えに満足した私は小さく
「よし」と言ってスマホをしまった。






目の前にドン、と建っている校舎へ続くこの坂は、
ここの生徒の体力と気力を奪う「魔の坂」と呼ばれている。


とにかく急で、長いのだ。


自転車通学している生徒は当然漕いでは上れないし、
歩いている生徒だって足が止まってしまう。


この学校の登校率が著しく低いのは8割ほどこのせいである……と思っている。