ガラガラとキャリーケースが音を立てる。これからどうやって生活しようかとキャリーケースを手に、浜田透(はまだとおる)は頭を抱えていた。

空港を出てタクシーに乗っても、行く当てなどない。久しぶりの日本だというのに、透は「帰ってきた」という喜びさえ感じていなかった。

両親に期待され、透は医大に入って勉強をしていた。将来は優秀な心臓外科医になるように言われ、透もその道を進むのだと思っていた。

しかし、医大の卒業を控えていたある日、透のもとに報せが入った。それは両親が不慮の事故で亡くなったというもの。透は、長く縛られていたものから解放されたのだ。

両親がいなくなったことにより、透は病院に就職することなく親の残してくれた遺産を使ってアメリカへと旅立った。何となく、日本でないどこかを彷徨きたかったのだ。

ニューヨーク、カリフォルニア、フロリダ、ワシントン、テキサス、アリゾナ、ミネソタなどアメリカの数々の土地をブラブラ旅していた。その間、お金は全て遺産を使っていたのだが、ついにその遺産は底が見え始めた。