椿が海の方を見る。

「妻の名前は香菜って言うんだけどな。」
「・・・」
「香菜とは幼なじみでさ。中学から付き合って、専門学校も一緒だった。ずっと一緒にいたらさ香菜の夢がいつの間にか俺の夢になってたんだ。」
海は寂しそうな瞳でうつむきながら話続ける。

この話を誰かにするのははじめてだった。

「花屋を始めたばっきりの頃はかなり大変だった。一日一日をやり過ごすことに精一杯でさ。でも香菜は楽しんでた。手作りにこだわってポップ作ったり。」
少し海が微笑む。
その笑顔の奥に想像する”香菜”の存在を感じる椿。
「でも、俺は余裕なくてさ。がむしゃらすぎて疲れていったんだどんどん。どっかで俺が香菜を支えないととか、俺が・・・って意固地になってたんだな」
一気に再び表情が曇る海。
「朝市には俺が行くのがいつもだったのに、起きられなくてさ。」
海の心の涙が見えるような切なさに満ちた表情に椿はそっと海の手に自分の手を重ねた。