ケータイ小説 野いちご

高司専務の憂鬱

プロローグ


ため息を耳にしたバーテンがちらりとカウンター席を見る。
ひとりの男性客が、つまらなそうに息を吐き捨てて、ネクタイを緩めていた。

左手の動きに合わせてシャツの袖口から顔を出した腕時計が、きらりと一瞬光る。
高級腕時計に負けない上質なスーツを着た彼は、男から見てもつい目を留めるほど、端正な顔立ちをしていた。

聞こえたため息は提供した酒や料理へのものではないらしい。
彼はまだそれらに手を付けていなかった。

バーテンはホッとしたように手元に視線を戻し、グラスを磨くクロスに力を込めた。

客の名は高司 颯天(たかつかさ はやて)
彼はここ『氷の月』の若きオーナーの友人で、時折遅い夕食を兼ねてこの店を訪れる。

オフィスから近いこともあるのだろうが、食事がてら気の置けない友人と会話をすることで、日ごろの疲れを発散しているのかもしれない。


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