夜、わたしのもとへ帰ってきた帝王。



「壱華……」



そっとつぶやくとわたしを軽く抱き上げ、胸のあたりに顔をうずめる。


ふわりと香る香水とかすかな煙草のにおい。


このにおい、すごく好き。




「飯食ったか?」

「うん」

「風呂は?」

「入った」

「ああ?……チッ、一緒に入ってやろうと思ったのに」



最近は敬語でしゃべると怒られるから、タメ口で会話するようになった。



「いつになったら俺と風呂入るようになるんだ。え?」



それにしても、彼の変態度が増してきた気がする。


そんな彼はわたしを横抱きにしたまま、リビングのソファーの上へ座る。


荒瀬さんの膝の上。


そこがわたしの定位置みたいになってる。


彼はそこで何もせず、ただわたしを見つめる。


わたしはどこに視線を向けていいか分からないから目を伏せる。


それは無意識な、彼を認めていないことの表れでもあった。



「……はぁ」



そして荒瀬さんは小さくため息をつく。


これが毎日の繰り返し。



「おい、壱華」



だけどこの日は違った。