7話「鴉の瞳」



 目の前で使われた言葉。
 呪文と言った方がいいのかもしれない。それは不思議と怖いとは思わず、心地よいと感じられた。今までは直接見たこともなく、ただただ噂だけを聞いて怖いと感じられた。けれど、彼の言葉は怖いものではなかった。知らない国の言葉を知るようで、ワクワクとした気持ちになった。
 けれど、それを自分でもその呪文をつかったのだと思うと不思議だった。


 「体、震えてる………風呂入ってきた方がいいんじゃないか?」
 「………ねぇ、あなたは誰?あなた、どうして助けてくれたの?」


 心配してくれて言葉には返事をせずに、空澄は彼に問いただした。

 何故、自分の事を知っているのか?名前も、そして家まで知っていて、今はお風呂場まで行って操作までしていた。
 彼は自分の事を知っているのに、自分は知らないのだ。それについては知っておかなければ、お風呂に入る事も彼を家に入れたままにしておく事も出来ない。


 「黒鍵希海(くろかぎきうな)」
 「え……」
 「だから、俺の名前。それに、俺は魔王だ」
 「………魔王……」
 「知ってるだろ?それぐらいは」


 魔女と魔王。
 もちろん、空澄も知っていた。けれど、こうやって面と向かって会ったことも話したこともない。それぐらい珍しい存在だった。