プロローグ



 「何なんだ、あれは………」


 来栖璃真(くるす あきさね)は、閑静な住宅街を必死に走っていた。辺りはすっかり暗くなっており、彼の足音だけが響いていた。


 璃真は黒い影に追いかけられていたのだ。
 自業自得かもしれないが、ずっとチャンスを狙っていたモノをやっと獲られるはずだった。が、たった今、璃真を追っているその黒い影に邪魔をされたのだ。



 『あいつに気安く触れるな。何度試しても無駄だ』
 

 頭の中に直接語りかける低い声は、とても落ち着いていた。その声は黒い影のものだも璃真はすぐにわかった。



 『追いかけっこは終わりにしようか』


 その言葉は住宅街の中にある大きな沼が見えてきた瞬間に聞こえた。
 黒い影の言葉と共に、どのからともなく大量の水が空に浮かび、一気に璃真を包んだ。水牢のように璃真を水が包む。当然、息が出来なくなり夜空で溺れてしまいそうになり、璃真はもがいた。
 それを黒い影はただ見つめていた。

 ボコボコと璃真の口から息が漏れる。そろそろ息耐えてしまうだろう。と、思った瞬間に一瞬で水は蒸気に変わり、霧のようなミストが空にただよった。


 『………魔力を使ったか。でも、まぁいい………目的は果たした』


 黒の影が見つめる先には、先ほどまで動いていた璃真の白骨が地面に落ちていた。


 黒の影はそれを睨み付けると、その場に放置したまま空を飛んでいく。


 
 この時、来栖璃真という男は2回目の死を迎えたのだった。