池内紗奈恵とは中学3年生の時に初めて知り合った。紗奈恵は活発な女の子だった。また、顔立ちも良くてクラスでも1、2の美少女だった。それに女子のリーダー的な存在でもあった。

席替えがあって席が隣同士になった。僕はその当時はシャイな性格で女の子とは話もできなかった。ただ、勉強はできてクラスの最上位にいた。僕のどこが気に入ったのか、彼女は休み時間に僕にちょっかいを出してはからかっていた。僕に好意を持ってくれているのだとなんとなくそう思って悪い気はしなかった。

中学校を卒業して高校生になってからすぐにクラスの同窓会が開かれた。気心の知れた男女10人くらいが集まったが、僕もその中にいた。紗奈恵はその時も女子のリーダー的な存在だった。僕は彼女が好きだったから彼女が参加すると聞いて参加していたと思う。でもその場では二言が三言の言葉を交わすだけだったように記憶している。

高校2年の時だったように思うが、電話がかかってきて、彼女の高校の学園祭に招待された。中学の同窓生何人かには連絡していたようだった。僕はその指定された日時に出かけて行った。

その時の僕は高校の制服を着ていて、有名進学校だからその場でも目立ったと思う。指定された場所に行くと嬉しそうに僕を案内してくれた。素敵なボーイフレンドが来てくれて彼女も鼻が高かったのだと思う。彼女が僕を好いてくれていると思って嬉しかった。

中学校3年のクラスの同窓会はそれから毎年開かれていた。僕が大学に入ってからも行われていた。女子の世話好きがいて、僕にも声をかけてくれていた。僕は彼女が毎年出席しているので必ず出席するようにしていた。

彼女は高校を卒業すると会社勤めを始めたが、1年後に私立の女子大に入学した。同窓生が言っていたところによると大学受験に失敗して再受験したということだった。親にも勧められて大学は卒業しておきたかったのだと思う。僕も地元の大学に入学していたし、彼女もそう思ったのだろう。きっと大学で素敵な男性を探して結婚したいと思っていたのだろう。

聞くところによると、大学の4年間はサークル活動に精を出していたそうだ。それも僕の大学のサークルと組んで活動していたようだ。きっと素敵な彼を求めて彼女は一生懸命だったのだと思う。

大学時代に彼女の家で開かれた新年会に招待された。中学3年のクラスの同窓生の何人かも招待されていた。女子の方が多かったが、男子は僕のほかに3名ほどいた。その中には大川君もいた。

その年の秋頃だったと思う。街でばったり会った。お茶しようとコーヒーショップに入って話をした。その時に丁度開かれる大学祭のイベントに招待した。彼女は招待を受けてくれた。

その学園祭のイベントが終わった後、夜遅くなったので家まで歩いて彼女を送って行ったのを覚えている。それまでは彼女とは付き合っているとまでは言えない仲だった。ただ、彼女は僕に好意を持ってくれていることは分かっていた。

その時に付き合ってくれと言えばよかったと今でも後悔している。でもできなかった。僕はその時、留年が決まっていた。それで付き合うのは大学を卒業してからでも遅くはないと思っていた。

次の年から毎年正月2日には彼女の家で中学のクラスの同窓生が何人か集まって新年会を開いていた。僕も呼ばれるので参加していた。

大学院1年の時だった。僕は例年のとおり新年会に参加するために彼女の家へ出かけた。今年は呼びかけがなかったが、彼女に会いたくなって出かけることにした。彼女は前年の3月に大学を卒業して4月から市内の病院に栄養士として勤務していた。

玄関のチャイムを鳴らすと母親が出てきた。それから彼女も出てきた。案内されて家に入ると一人の男性がいた。僕より3~4歳位年上で、僕と同じ大学の大学院を2年前に卒業したと聞いた。そして彼が彼女の婚約者だと紹介された。

僕は知らなかったとは言え、寄りにも寄ってバツの悪いところへ来てしまったと後悔した。それに彼女に悪いことをしたと思った。婚約者という人は彼女が大学生の時に見染めて、昨秋に両親と彼が家に来て結婚を申し込んだと聞いた。

居心地が悪くて、僕は頃合いを見計らってすぐにお暇した。彼女の家にいたのは10分足らずだったと思う。

僕は彼女がこんなに早く結婚を決めるとは思ってもみなかった。それよりも招待もされていないのに、彼女の家にのこのこと出かけて行った自分を呪った。

ほかの同窓生は彼女の婚約を知っていたのだろうか? どうして 僕にはそれを教えてくれなかったのだろうとも思った。

彼女に悪いことをした。婚約者は僕のことをどう思ったのだろう。誤解しなければいいがと思った。もう彼女のことは忘れよう、そう思って僕は帰り道を急いだ。

家に着いた時は身も心も冷え切っていた。すごく自分が惨めで悲しくて泣きたかった。

今そのころを思い返してみると、彼女が初恋の人だったと思う。初恋は成就しないと言われているが、その通りだと思っている。