解剖室に運ばれたご遺体は、七十代後半ごろと思われる老人だった。頭や体に血がこびりついている。

「××通りで血を流して倒れているのを通行人が発見した。救急車を呼んだそうだが、救急車を待っている間に亡くなったそうだ」

藍の元恋人の如月大輔(きさらぎだいすけ)刑事が言う。

「体の損傷が激しいですね……」

何事もなかったかのように藍は遺体を観察する。そんな藍を見て、大河と如月刑事は心配げな表情をしていた。聖と朝子が頰を赤らめる。

「体の損傷からして交通事故に遭ったと思うんですけど〜……」

如月刑事の部下、原光矢(はらこうや)刑事がそう言うと、如月刑事は「それはこれから先生方が調べる!!」と怒鳴った。

「この方の身元は?」

朝子が訊ねると、「それが、身元がわかるものを何も持っていなかったので……」と原刑事が首を横に振る。

「とりあえず、解剖を始めます」

藍はそう言い、メスを手に取った。