第三章 寂しいだけの結婚

それから三カ月間の怒涛の忙しさを乗り越えた諒太と彩実の結婚式が今日、白石ホテルで盛大に行われた。

結局、どれだけ考えても、彩実は諒太との結婚から逃げ出せなかった。

この日を迎えるまでのふたりの苦労も半端なものではなく、彩実は何度も自分の決断が正しかったのかどうか、答えを出せないまま悩み続けている。

最も苦労したのはマスコミから追われ続けたことだ。

経済界に強い影響力を持つ白石家と如月家の結婚は婚約発表以来注目され続け、彩実の名前と顔を、テレビや雑誌を始めネットで見ない日はなかった。

隠し撮りされた出勤時の写真が、彩実が会社のデスクに着く前にネットにアップされたり、展示場で来場者を前に商品説明をしている様子などが投稿されるなどはまだかわいいもので。

諒太のパートナーとして社交の場に登場する機会も多かったせいで、正装したふたりを撮影した写真が雑誌に持ち込まれ、週刊誌に掲載されることも多かった。

フランスの血が混じっている彩実のルーツを調べ、わざわざフランスの親戚に会いに行った記者もいた。

フランスの親戚たちは彩実の結婚に大喜びで、訪ねて来た記者たちに自慢のワインをふるまい、彩実が子どものころの写真まで見せる始末。

彼らもフランスでは有名なビリオネアであり、普段から日本よりもやっかいなマスコミから身を守りながら暮らしているはずなのに、よっぽど彩実の結婚がうれしかったのだろう。

記者たちが驚くほど彼らをもてなし、最後にはいつも「彩実が幸せになるよう見守ってちょうだい」と言ってくれていたそうだ。

マスコミを敵に回すよりも味方にして彩実を守ろうとしてくれた親戚たちの愛情に、彩実は胸がいっぱいになった。