「入賞おめでとう」
「ありがとうございます」

無我夢中で描いた絵が入賞した。
まさか自分が・・と思って信じることができなかったけど
今日の授賞式で
いろんな人にお祝いの言葉をかけられると
だんだん実感がでてきた。

美術部顧問の先生もうれしそうに、にこにこしながら他校の先生と話しをしている。

頑張ってよかった・・。

受賞作品の展示会場である美術館にはたくさんの作品が飾られている。
全国で大々的に報道もされて、しかも、審査員には国外ともに有名な画家か名前を連ねている。

そのためか、話題もあって、マスコミも多く駆けつけていた。

授賞者のインタビューも緊張しながら受けて、
人混みでごった返しの会場のなか、私は改めて自分の絵を見ていた,

目に焼き付けている愛おしい人の姿。



「ちょっといいかしら?」
絵を見ていると
いきなり声をかけられてびっくりした。

上品そうなご高齢の女性が隣に立っていた。
「この絵を描いた森本ゆららさん?でよかったかしら?」
「はい」

「いきなりでごめんなさいね、話かけてしまって」
「いえ。大丈夫です」


やわらかく優しそうなご高齢のご婦人がほほ笑んだ。
ネイビーのセットアップに小さいブラックのハンドバックを片手にしていた。

「お時間大丈夫?すこし、伺ってもいいかしら?」
「はい・・」


「この男性は友達か何かなのかしら?」
「あっ・・私の通う高校の陸上部の・・・優秀な選手なんです。この前もインターハイで優勝して・・すごくすごく高く飛ぶ人なんです。」
「そうなのね」
「高く高く飛ぶ彼はとてもきれいなんです。・・・初めて彼の飛んでいる姿を見たとき、本当にきれいで・・・」

今でも、ついこのあいだのことのように鮮明に思い出せる。
初めて見た彼の姿。
まるで空に吸い込まれそうだった。

あの日から私は彼を追いかけている。


「彼のことがとても好きなのね・・・この絵からとても伝わるわ。、、、、好きな人を思っているからこそ描ける絵ね」

好きな、、ひと。


「・・・はい。とても大切な人です。・・・だけど」
「だけど?」
「・・・彼が飛ぶ姿を一番近くてみていたかったけど、私が彼の邪魔をしているから、彼のそばにいることで重荷になるから、もうそばにいたらだめなんです」
「あなたが重荷だって、彼にそう言われたのかしら?」
「でも、本当に」


<<ゆらら、見てて、もっと高く飛ぶから>>
<<ゆららがいてくれるから高くとべるんです>>

美術室からいつも遊馬くんの飛ぶ姿を見ていた。
うまくとべた時は必ず私がいる美術室を笑顔で見るから、わたしは遊馬くんの姿を見逃さないように、窓際でデッサンしていた。

<<ゆらら、僕のこと見ていて>>
いつだって、遊馬くんは私が喜ぶように、、、いつも、、。

「、、、」
思わず口を手で塞いだ。
そうだった、、、。
重荷とか迷惑とか遊馬くんは一言も言っていない。

私が勝手に、遊馬くんのそばにいることで選択肢を狭めていると思っていただけ、、?



「・・・・本当にそうかしら」
ふと、女性が微笑んで視線を私の後ろに移した。

そして、

ご高齢のご婦人は優しいまなざしで

「でも彼は、あなたのことがとても好きみたいね」
「えっ・・・」

うふふと笑いかけられて私の後ろの視線を向けた。

同時に
「ゆらら」

耳元に、懐かしい声がして、
ふわっと・・背中から抱きしめられた。


「、、遊馬くん・・」

愛おしい名前を呼ぶのですら久しぶりで声が震える。
振り返らなくてもわかる。
遊馬くんに抱きしめられる感覚。
忘れるわけない。

離れたこの時間、何度も求めた、ぬくもり。


「すみません、お話中、失礼します」

遊馬くんにそのまま、腕を引っ張られて美術館の二階にある部屋に入った。
「、あ、遊馬くん、ここ、関係者以外立ち入り禁止じゃ」

遊馬くんは私の質問に答えることなく、ぎゅっと抱きしめてきた。

「ゆらら、どういうつもりなの。」
「えっ、、」

「あの絵、なんで僕なんですか?」
「、、、、」

「絵を見たとき、息が止まるかと思いました。」

「...私が、一番すきな人の、一番好きな姿を描きたかったの。」
「ゆらら」

遊馬くんと久しぶりに、向き合った。
すこし、恥ずかしい。

でも、、あの日からずっと
遊馬くんに伝えなきゃいけないことは、たくさんあった。

伝えなきゃ。
きちんと、自分の口から、わたしの想いを。

「遊馬くんだけじゃないんだよ、追いかけているのは。、、私はずっと遊馬くんを追いかけてる。、、、三年前からずっと、遊馬くんだけ見ていたんだよ。」
「、、ゆらら?」

信じられないという瞳で私を見つめる。

「遊馬くんが中学最後の大会、私もボランティアで行っていたの。あのとき、初めて遊馬くんの飛ぶ姿を見たの。、、今でも鮮やかに覚えているよ。、、高校でまさか会えるなんて思わなかった。」
「...........」
遊馬くんは黙って私の話を聞いていた。

きちんと、私の気持ち伝えなきゃ。

「ずっとあのときから、私は遊馬くんを追いかけて、遊馬くんで、いっぱいで。遊馬くんだけ見ていたよ。」

ぎゅっと私も強く遊馬くんを抱きしめる。

「入賞したあの作品はね、中学の時、私が初めて遊馬くんを見た大会の時の遊馬くんだよ。」

「、、、、」

「...あの日からずっと私の中に遊馬くんはいるんだよ。」

抱きしめてくれる力がいっそう強くなった。
私の髪の毛に顔を埋め、遊馬くんは少し震えていた。