絵画コンクールに、出品する、そう決めてからわたしは、ただただ、放課後、絵を描いていた。

どんな絵にするか
それはもう、決めている。

あと、一ヶ月。
焦りと不安。

私は、ほとんど毎日、遅くまで学校に残るようになっていた。

ここで、結果が出たら
遊馬くんに言えそうな気がしていた。

私は大丈夫って。

もし、二人が別々の道を歩いたとしても
二人の行き先が交わらなかったとしても
私は一人でも歩いて行けそうな気がする。


すっかり窓の外が暗闇になって、
時間も夜の七時すぎ。

美術室を
慌てて片付けをして、
廊下を早足で歩いていた。

ドンッ!

おでこに何かあたって、びっくりして見上げた。
「あ、遊馬くん」

懐かしい、大好きな遊馬くんの匂いに胸が締め付けられた。
ぎゅって抱きしめられていたときに、安心できた匂い。

「いまから帰るの?」

少し、寂しげな笑顔だった。

「は、はい」
「なんで敬語を使うんですか?」
クスッと笑って、遊馬くんの手が私の頬に伸びてきた。
でも、頬に触れる寸前で手を戻した。

「ゆらら、部活だったの?」

「う、うん。:」
あー、だめだ。
緊張で顔見れない。

ずっと俯いたままの私。
こうして、近くにいるだけで、もう、気が遠くなる。

苦しくなってその場を離れようとした。

「じゃ、私帰るね」
バイバイ、と遊馬くんの横を通り過ぎようと歩き出した、とき、

「、、っ!?!」
力強く、腕を掴まれてぎゅっと遊馬くんの胸に引き寄せられて、そのまま、抱きしめられた。

「ゆらら、お願いだから逃げないで。ちゃんと話をしたいし、聞いてほしい」

縋るような声。
耳に遊馬くんの唇が当たる。

「大学のこと、言わなかったのはごめん。僕が悪かったと思う。
だけど、なんていったらいいかわからなかったのも本当で。」

大学にいくこと、反対とか嫌とかではない。
むしろ、遊馬くんにはこのまま続けてほしい。
今より
高く高く飛ぶ彼をみたい。



「僕は離れたくない。だから推薦を受けないことに迷いはない。どこでも陸上はできる。」
「でも、それじゃ」
「ゆららは僕がいなくても、さみしくない?」
「そんなわけ!ない。だけど」
「だけど?」
「私は遊馬くんが高く高く飛ぶ姿が大好きなの。遊馬くんには前を向いて、もっともっと私の先を走っててほしいの。」

遊馬くんは、一瞬はっとして、すぐに、悲しそうな笑顔になった。

「僕はそんなたいしたやつじゃない。自信もないし、弱い人間なんだよ。」

私の目の前にいる遊馬くんに手をさしのべたくなる。
本当はここで、遊馬くんを抱きしめるべきなのかも・・。
本当ならここで・・。



「.......::」

「ぼくはゆららが側にいてくれたら、それだけでいい。、、、どうしたら僕でいっぱいになるの?」

懇願するような・・まなざしに胸が痛くなる。



「遊馬くん、、」




「いつも、僕がゆららを追いかけてる。僕は自信が無い。ゆららが僕と同じくらいすきでいてくれているのか。だから離れるのが怖い。」


「、、、、、」

「、、僕なんてこんなもんなんだよ。呆れた?」


「そんなことないよ!」


「、、、こんなんだから、ゆららに、距離を置かれても仕方ないのかもしれないね。」

そう力なく呟くと遊馬くんの腕が離れた。