(あ……!)



満員の客席の中に、一目で家族の姿をみつけた。
あんなこと言ってたけど、ケントも来てくれていた。
嬉しくて、胸が熱くなる。



「おばあさま、喜んで下さるかしら?」



エミリーは、焼き立てのパイを入れたかごを持って、歌を歌いながら森の中を進むシーンだ。
少女らしい初々しさが出せるように、軽やかに動きながら無邪気に歌う。
擬人化された動物役の役者たちと絡みもある。
うまく合わさなければ。



「あ、やっと着いたわ!
おばあさまの家だわ!」

森でのシーンが終わり、暗転する。
おばあさんの家のセットに代わるのだ。
客席からは、大きな拍手と歓声が沸き上がった。
私の名を呼ぶ声は、きっとパパだ。



セットチェンジが終わり、舞台が明るくなる。



「おばあさま!エミリーです!」

だけど、返事はない。
おばあさんは出かけているという設定だから。



「おばあさま!いらっしゃらないの?」

おばあさんがいないとわかったエミリーは、屋根裏に向かう。
危ないから行っちゃいけないと言われていた屋根裏に…
そこには、大きなクローゼットがあった。



(あ……!)



クローゼットが、赤と青の光を放っていた。
ミスだ!
ここで、エミリーが1曲歌って、扉を開けた時に光り始める手筈なのに…



(……どうしよう?)



舞台袖を盗み見ると、監督が扉を開ける仕草をしていた。
私は小さく頷き、声を張り上げた。



「まぁ!この光は何かしら!?」



クローゼットの扉を開くと、赤と青の光に目が焼かれた。
なんて、眩しい光…
リハーサルの時は、二色の光だなんて言われてなかったのに…
でも、迷ってる時間はない。
私は特に考えることもなく、青い光の方へ飛び込んだ。