【佐倉鈴 side】
輝が変だ。
最近ぼーっとしている事が増えた。
「…輝?」
「…うん?」
「それ、鉛筆じゃなくてポッキーだよ?」
「…あ」
…輝がおかしい。
私の家に来てから輝はおかしい。
どうしたんだろう…
「輝」
「うん?」
「何かあった?」
輝がずっとおかしいなんて、そんなのやだ。
「…うーん…こんなこと鈴に言っても…
僕の家族の問題だからなあ…」
輝は私に重荷にならないか考えてくれてるんだ。
「ううん、大丈夫!言って!」
「…うん。
鈴と付き合い始めた日なんだけどね…?」
その次の日輝を見た時はかなりびっくりしたけどね?
いつもの自転車じゃなくて、歩きだったし。
頭に包帯巻いてるし。
腕にギプス巻いてるし。
「…母さんに会ったんだ。」
「お母さんと?」
輝は静かに頷く。
「…梨華さんは僕を暮らしたいって言ってくれたんだけど…」
輝が珍しく迷ってる。
「…輝的にはどうなの?」
「…確かに、ずっと離れてた母さんと一緒に暮らしたいって気持ちはあるよ。」
…そりゃそうだよね…
「でも僕はあの家を手放すことは出来ない。」
…あ、そっか。
あのお家は…
輝が生まれ育った家であると同時に…
お父さんとの思い出が沢山詰まった大切な家だ。
「…僕は母さん…梨華さんと暮らしたい…っていう気持ちはあるけど…」
「あるけど?」
「もし、一緒に暮らすなら、僕はこの街には居られなくなる。」
輝は私の目をしっかり見て話し続ける。
…輝が、この街から出ていく…
もう、会えなくなる…?
…そんなの…
「…やだ」
「鈴?」
「輝が私のそばからいなくなるなんてそんなのやだっ…」
「…泣かないで、鈴。」
輝は立ち上がって私の前にくる。
輝の優しい手が私の目から出てくる涙を拭ってくれる。
「…やだよお…」
「…うん。」
「そばにいてよお…」
「大丈夫だよ。」
輝は私を落ち着かせるように優しく抱きしめてくれる。
背が高いわけでも低い訳でもない輝。
「僕は死ぬまでこの街にいるよ。」
分かってた。
輝は優しいから、私が止めたらここにいてくれるって…
「…鈴のそばに居るから…」
私は優しい輝の胸でしばらく泣いた。
【佐倉鈴side END】

【卯月輝side】
母さん…梨華さんの申し出は嬉しいけど…
僕は鈴のそばにいたい。
…家族になったところで1ヶ月もしないうちに僕が死ぬんだ。
家族になってもならなくても変わらない。