弘徽殿の女御は、しげしげと目の前にいる弟を見つめていた。

やがて呆れたようにフゥとため息を漏らす。

かれこれ一刻はこうしているだろうか?
女御の弟、碧の月君こと橘碧月は、身じろぎもせずぼんやりと庭の桜を見つめている。

彼の視線を追うように桜に目をやれば、ほとんどが散ってしまった後で辛抱強い花がいくつか残っているだけであった。

それはまるで、宮中をおおいに賑わせた噂話のようにも思える。

噂とは、言わずもがな源李悠と花菜姫の結婚のこと。

花吹雪のように隙間なく駆け巡り、落ち着いてはまた舞い上がりを繰り返していたが、そのお祭り騒ぎも散る桜と一緒にようやく落ち着きをみせてきた。

藤の花が色づく頃には、他の噂の花びらに紛れてしまうだろう。