屋上は日を遮るものがなく、とても暑かった。春から初夏に季節が移り変わっていく…それを肌で感じられる。
お兄ちゃんは自然を感じるのが好きだと言っていたから、私もその感覚を理解できるようになりたい。

「それで…あなた誰なの?

お兄ちゃんの小説にはペンネームが使われている。私との繋がりを知る人なんているわけないのに…。

「俺は三年の村越蒼斗。逃げ出さなくても良かったのに、先生は俺の祖母だから」

「え…?」

「お前の本性知られたくないんだろう?センセーやオトモダチに」

先生とお友達、その言葉が空々しく聞こえたのはきっと気のせいなんかじゃない。

村越は何か大事なことを知っている…直感的にそう思った。

真っ直ぐ射抜くような視線を私も見つめ返す。そらしたら負けだと…なぜかそう感じた。

「なに…言ってるの?」

「…ココ最近お前を見てて思ったんだけど、みんなにヘラヘラして疲れないの?お前人間嫌いだろ」

この人は私のことを知ってる。おそらく本当の意味で。

この人が私の日常を壊すかもしれない…それは久しぶりに感じた恐怖だった。

私は今までお兄ちゃん以外の人を心から大切だと思えたことがないし、交友関係を面倒だと思っている。だけどなぜか、壊されるのは嫌だった。

もしもこの人が私の嘘に綻びを生じさせたら…そう考えると、負の感情が溢れてきて呑み込まれそうになった。

「…あなた私にどうして欲しいの?」

そこで村越の雰囲気が少しだけ和らいだ。
何かを思い出すように細められた目が青い空を見上げる。