「母さん。俺の取り柄ってなに?」

 「優しい子よ。おとなしいところ。でも頑固なところ。よく手伝いをしてくれる。ほら、あのときも、さやえんどうのスジを一緒に取ってくれてた。だから、兄さんの光一の受験シーンを偶然テレビニュースでみれた。それから疑問を持たずいつも母さんの……」

 き、きめてがない。よくもまあ次から次へとふんわりした長所が出てくるものだ。嬉しいけど。

 「何か世間的には?それは母さんにとってでしょ!?」

 「疑いを持たずと言ったけれど、敦は、全てやりとおすのよ。皆勤賞って言うのかな?」

 それそれ……今日橋本先生が言ってたやつ?無遅刻無欠席か? 


 「でも高校全出席って珍しいのかなあ。うち市立だし、結構真面目な奴多いよ」

 「幼稚園からよ」

 「えっ!?」

 俺が固まっていると、母さんは、おもむろに立ち上がって、2階へ上がって行った。

 幼稚園から?どういう事だろう。

 俺はしばらく考えてから、ショッピング系のメールマガジンが来たのを機に、携帯電話をいじり始めた。




 「ほれっ!これを見てみなさい」
 
 「ひっ!」携帯電話に来たメルマガに集中していたのでびっくりした。
 
 母さんは、そろりそろりと音もたてずに階段を上り下りするので、急に声をかけられると驚く事がある。

 見ると幼稚園から高校までの通知表的なもので、登校日数が記されている。すべて分母と分子が同じ数字。
 
 「ほんとは、全登校日数より、敦の方が出席してるのよ」母さんは遠くを見るように続けた。

「特に小学校の時。台風で休校の時も、止めるのも聞かず、学校を見に行ってたわ」

 俺の顔が熱くなった。あの頃は、ただ好きな子の、家の前を通りたかっただけなのだ。台風であろうとなかろうと。

 「それだけではないの」母さんは続けた。
「柔道も空手も塾もよ」

 「えっ???そりゃあすごい!!」思わず俺は自分を褒めてしまった。

 俺は小学生時代は柔道を地元警察署で、中学生時代は空手を地元寺院で習っていた。そんな習い事までも無遅刻無欠席なのか。

 俺は、明日の最後の授業を休んでやろうと思っていた。先生に、君は絶対欠席しないとか、同級生に、声小さ透明人間かなんて言われたのが妙にダサく思えて、反抗してやろうかと考えていたのだ
 

 たが、俺の無遅刻無欠席は、半端ではなかった。ようし、明日堂々と最後の出席に大声で返事をし、有終の美を飾ってやろう。そうすれば……。

 そうすれば俺は、俺の引っ込み思案や、内向的な性格を克服して、自分を変えることができるかもしれない。

 そうすれば俺は……。

 明日必ず学校へ行って、生涯無遅刻無欠席を達成するぞと意識しだすと、何だか緊張してきて、俺は音楽を聴いたり、ストレッチをしたりギターを弾いたり、落ち着かなかった。