月の綺麗な夜に、風が静かに吹き抜ける。
夜にもかかわらず、着物姿の娘は一人、竹林で舞っていた。
まるで蝶のように美しく。
他に人影のないそこに迷い込んだ少年は、岩陰からその姿に見惚れていた。
名は紳三郎。
隣村の本家の一人息子である。
隣村でも美しいと評判の娘を、夜中に家を抜け出して見に来たところ、道に迷いここに辿り着いたのだ。
「なんと美しい……」
紳三郎の口から漏れた声に娘は舞うことを止め、紳三郎のいる岩の方を向いた。
「そこにいるのは誰か」
娘の言葉に、紳三郎はゆっくりと立ち上がり、姿を現す。
「見ぬ顔だ」
娘は着物の袖で口元を隠し、怪しく微笑んだ。
凍り付くほどの殺気を感じるが、やはりその姿は美しい。
紳三郎は娘に近付いていく。
枯れ落ちた葉は踏みつけられる度に音を立て、静かな夜の竹林はその音を響かせる。