勉強合宿後、教室にはいつもの平穏な時間が
戻っていたと思われたが…。

「早姫ありえないんだけどー。」

「あいつウザいよねー。」

「わかるー!」

クラスには不穏な空気が流れていた。

ガラッ。

教室に入ってきた早姫ちゃんに
冷たい視線を送るクラスメイトたち。

私。この雰囲気、苦手なんだよな。

前にもこんなことがあった。
小学校高学年の頃。

その時、私は見て見ぬ振りをするしかなかった。

「お、おはよー…」

早姫ちゃんの挨拶を無視して話し続ける女子たち。

無視と陰口は昼休みまで続いた。

この空気に耐えられなくなり
教室を出ようと思った瞬間。

「早姫。あんた今日からうちらの友達じゃないから。」

教室の隅で
早姫ちゃんを3人の女子が取り囲んでいた。

3人の隙間から早姫ちゃんの今にも泣き出しそうな顔が見える。

気がつくと私は走り出し
3人と早姫ちゃんの間に割り込んでいた。

『どうしよう、
思わず身体が動いちゃったけど…』

「白石さん、なに?」

鋭い目と合う。

逃げ出したくなった瞬間、
田島くんの言葉を思い出した。


〝白石さんはすごい優しいし強いよ。

…だからもっと自信持ちなよ。

周りの目なんか気にしないでさ!〟


私はいつも周りの目を気にして生きてきた。

だから言いたかったけど言えなかった言葉が沢山ある。

勇気を持って言わなきゃ。

誰も悲しまないように。

後悔しないように。


「もうやめようよ。こんなこと。

早姫ちゃんたちに何があったかは
知らないけど

私はただみんなと楽しく過ごしたい。

笑って過ごしたい。

苦しい受験生活乗り越えて

やっと思い切り笑えるのに

教室がこんな空気じゃ悲しいよ。」

言い終わると3人の隙間から
心配そうに私を見つめる美咲と目が合った。

『美咲まで巻き込みたくない…』

そう思った瞬間、

「白石さんには関係ないでしょ!」

女子の手が私の方を掴む。

その瞬間、

「やめて!」

美咲が私を庇うように間に割って立つ。

「私もそう思う。

みんなと楽しく過ごしたい。

嫌いな人がいるなら嫌いだって1人で思っていればいい。

他の人巻き込んで1人だけ傷つけて

あなたは悲しくないの?

自分だけ良ければいいの?」

「だからあんたらには関係…」

「俺もそう思う。」

もうダメだと思ったとき。

遠くから田島くんの声がした。

「お前らが揉めるところ見たくもないし

大人数で1人をいじめてんのも。

みんな関係ないフリしてるのに、

止めに入った白石さんと高田さんはすげーよ。」

田島くんは見たこともないような
怖くて冷たい視線を送っていた。

クラスが静まり返る中、早姫ちゃんが泣きながら教室を出て行く。

「さっ!みんな終わりー!

こっからは楽しく行こー!!」

岡田くんがいつも以上に明るく笑うので
緊張が解けた。

予鈴が鳴り、みんなが騒がしく教室を出て行く。

「美咲ー!」

泣きながら美咲に抱きつく。

「もう、なに無茶してんのよー!」

そう言って美咲は私の頭を撫でる。

「さっきのすごくなかった?」

「やっぱり田島くんかっこいいよね!」

「高田さんもかっこよかったよね!

最初に止めに入った白石さんも!」

遠くからクラスメイトの話声が聞こえる。

美咲とともに動けないでいると

岡田くんが駆け寄ってきた。

「やっぱ、すごいよね。白石さんは!
あの状況で止めに入るなんて。」

「そんなことないよ。
美咲がいなかったらどうなってたか…。

田島くんもありがとう。」

遠くにいる田島くんに声をかける。

「別に俺はなにもしてないよ。」

そう静かに行って教室のドアに向かう。

「まぁ、田島のせいなんだけどね。

早姫ちゃんって子、今朝抜け駆けして

田島に告白したの。

合宿のときからすごかったからな。」

田島くんは聞こえないフリをして教室を出て行く。

「で、返事はどうしたの?」

美咲が問いかけると。

ドアの前で振り返り

「断った。

誰かさんと同じで
初恋の女の子が忘れられないっーて。」

そう楽しそうに笑いながら走っていく田島くんを

岡田くんが追いかけていく。

田島くんにからかわれて
恥ずかしさが込み上げてくる。

「田島くんってもっと優しい人だと思ってた!

意外と意地悪なんだね。」

「そうだよー。

ずっと一緒にいて気づかなかったのー?

誰にでも優しい訳じゃないんだよ田島くんは。」

そう言って美咲は優しく笑った。