「おーい、江坂(えさか)。司会の子はまだ来てないのか?」


「車が渋滞しているみたいで、少し遅れるそうです。

さっき連絡がありました」


「江坂先輩、これはどこに置いておけばいいですか?」


「えっと、それは景品の隣に置いておいて」


「はい、わかりました」


とある店舗のフロアで、スタッフ数名が慌ただしく動き回っている。


私が就職したのは、大小様々なイベントの運営を手がけるイベント会社。


土日や祝日がメインの仕事だから、ゴールデンウィークやお盆休みなどは基本的に休むことが出来ない。


今日は、新規オープンしたお店の開店イベント。


新聞折込で宣伝も大々的にしたから、多くのお客様の来店が見込まれている。


これは忙しくなりそうだ。


私達は一日中息つく暇もなく動き回り、その甲斐あってイベントは大成功だった。


「菜穂。安田さんがこの後みんなでご飯に行かないかって言ってるけど、どうする?」


全ての片付けが終わってそろそろ解散という頃になって、同期入社で仲良しのアキが言った。


「あー、ごめん。今日はパス。昨日帰りが遅くなっちゃって寝不足なのよ。帰って寝るわ。明日もイベントがあるしね」


「そっかあ。じゃあ、そう伝えとく」


「うん、ごめんねー」


アキに手を振ると、私はお店を後にして、駅までの道をゆっくりと歩き始めた。


あぁ、さすがに睡眠時間3時間はきつかったな。


帰ったらお風呂に浸かって、ゆっくり寝よう。


そんなことを一人で考えていたその時。


「菜穂先輩」


爽やかな声が、風に乗って私の耳に届いた。