狭いワンルームに、水音がジャーッと鳴り響いている。


シンクに顔を埋めて、苦しそうに吐いている梨華の背中を撫でてやれば、くっきりと浮かび上がる彼女の背骨。


それが、なんだか痛々しかった。


「梨華、大丈夫?」


「ん……」


吐いて落ち着いたのか、ゆっくりと上半身を起こす梨華。


水が入ったコップを渡すと、彼女は口をゆすいで濡れた唇をタオルでそっと拭った。


梨華の部屋に、俺は今日初めて足を踏み入れた。


もちろん大学時代に住んでいた部屋には行ったことがあるけど、梨華は卒業と同時に職場から近いマンションに引っ越してしまって。


ここは俺の職場からも、いつも集まる居酒屋からも遠いから、来る機会なんて全くなかったんだ。


「今日も会社休んじゃった……」


ふぅとため息をつきながら、ベッドに腰を下ろす梨華。


つわりが始まった梨華は、初めてのことに戸惑ってここ数日会社を休んでいる。


たまたま今日が休日だった俺は、心配になって梨華の部屋を訪ねたというわけだ。


「会社には、なんて伝えてあるんだ?」


「風邪で熱が出たってことにしてる。

つわりだとは、ちょっと言いづらくて。

でも、そろそろ話さないといけないよね。

お腹だって、どんどん大きくなるわけだし」


そう言うと、梨華は自分のお腹にそっと両手を置いた。