好き、好き、好き。何度言っても足りない。そのくらい、君への想いは大きくて。中学一年生になってもその想いは伝えられなかった。悲しくて、悔しくて。今年こそは、と思い進級したものの、いざ君の前に立つと怖かった。私がここまで想う相手は、同じクラスの高瀬翔(たかせしょう)。なににおいても普通の私、富田亜依(とみたあい)は小学生の頃から翔のことが好きだった。勉強もスポーツも抜群にできた翔に、一目惚れした。運良く仲良くなれた私は、中学生の自分なら告白できてるな、と期待していた。なのに、できなかった一年生。二年生になっても無理だった。終業式の日、なんとか翔を呼び出して告白した結果はノーだった。短く「好き。付き合って」と言った私を見て、少し目を開き、顔を歪めた。傷ついた。これまでにないくらい深く。たかが恋愛でって思っているのに、傷つくことしかできなかった。そんな自分が情けなかった。三年生はクラスが離れ、ほっとした。そして今日、高校の入学式。翔と離れられてラッキー……じゃなかった。何で、何で?何で一緒の高校にいるの?せっかく離れられると思ったのに‼今では好きから苦手に変わっていた。それどころか、翔にフラれてから恋がどんなものか分からなくなった。はあー、と長いため息をつく。すると「どうしたの?亜依ちゃん。」という声が後ろからかかる。この声は後ろの席の十和羽沙喜(とわうさぎ)ちゃんだ。入学式の日からこの一週間でできたトモダチは、羽沙喜ちゃんだけだ。ニコッと笑って答える。「ううん、何もないよ。ありがとう。」「そっか‼ねえ、好きな人できたら教えてね‼」「……うん、できたらね。」「約束ダヨ!」「うん、約束。」「あ、今日日直だった!ごめん、亜依ちゃん。今から行ってくる~。」「いってら~。」バイバイ、と手を振りながら走って行く羽沙喜ちゃんの後ろ姿を見ながら、はあー、とまたため息。好きな人、か。私には辛い思い出しかないや。誰にも言えないけれど。昔の事を思い出し、泣きそうになる。「なあ、おい。」横から声がする。小さいけど、聞き取れる声。「どうしたの?えっと、宮瀬君?」「そう、宮瀬。あのさ、無理して笑わなくて良いよ。」「え?」「だから、あんた……富田さんっていつも無理して笑ってるよな。」「そう、かな。」「うん。」「でも、宮瀬君こそポーカーフェイスじゃん。」「それはそれ。俺は富田さんの事いってんの。」「何も知らないくせに、偉そうに言わないでよ‼」「悪い。でも俺は─嫌、この話はまたいつか。」「?私もごめん。実際、無理してるから、図星。」「急に素直になんなよ。調子狂う……」「ん?なんか言った?」「いや、何も」「そう」会話が終わった直後、羽沙喜ちゃんが先生と一緒に帰って来た。HRが終わり、一時間目が始まる。さっき宮瀬君が言っていた事が気になった。

私は今、羽沙喜ちゃんと宮瀬君と一緒にカフェにいる。
何故かというと、出会ってしまったからだ。遡る事、一時間前。私は羽沙喜ちゃんと初めて一緒に遊んだ。遊ぶと言っても、高校生なのでショッピングだ。高校の近くにあるショッピングモールに行くと、そこに宮瀬君がいた。挨拶するだけかな、と思っていたのに、羽沙喜ちゃんの提案で一緒することに………。宮瀬も「別に用事ないし良いよ。」とあっさり承諾。本当に最悪。心の中で宮瀬君に対する苦手意識が広がっていく。すると、羽沙喜ちゃんに突然電話が掛かって来た。ガタッと席をたった羽沙喜ちゃんが申し訳なさそうに呟く。「えっと、彼氏から呼び出しがあったから抜けてもいい?」
はい!?何で?二人っきりってこと?沈黙を了承だと思ったのか、「ごめんね。」と言って帰っていく。「………」「………」うわ、嫌な空気。何の話をしたらいいのかな?ぐるぐると会話の内容を考えていると、宮瀬君が口を開く。「あのさ、富田さんと高瀬の関係って何?」「…………え?」「だから、富田さんと高瀬の関係。」「言え、ない。」「俺、知ってるんだけど。」「嘘、どうして?」「聞いた。高瀬に。高瀬、富田さんの事フッたんだって?」「どうして、それを……」「聞いたんだって、高瀬本人に。」「最悪。本当に最悪。」「そんで、何で高瀬の事諦めたの?」「いや、だから。」「いや?」「うん。好きって言わなければ、今でも笑いあえたかもしれないのに。」「そっか。でもさ、一つ考えて欲しい事があって。」「何?」「うーん。それは言えない。俺から言う事じゃないかも。」「は?」「じゃ、ヒント。でも、それは明日学校で教える。帰ろっか。」「うん。」二人で店を出る。空はすっかりオレンジ色。道に私達二人の影が伸びている。「俺、こっちだから。また明日。」「うん」反対方向に歩いて行く。少し、気分が軽くなった気がする。フラれたことを、誰にも言ってなかったから。考えて欲しい事ってなんだろう。ま。明日でいいか。私は案外、宮瀬君を悪く思っていないみたいだ。早く明日になれ、と呟いた。次の日、学校に着いた私は深呼吸をして教室のドアを開ける。宮瀬君を見つけて駆け寄る。「あの、おはよう。」「おお、はよ。」「ヒント、欲しい。」「ヒント……ああ。ヒントは、俺のおすすめの曲なんだけど、これ聞いてみて。」「え?うん、分かった。」受け取ったCDをバックに入れる。「これを聞いて何が分かるの?」「それを聞いても分からなかったら、答えを教える。」「そっか。ありがとう。」その日は、早く家に帰りたくてうずうすしていた。帰り際、「この曲の歌詞が、俺の言いたい事とほぼ同じだから。」と宮瀬君が言ってくれた。帰り支度をして、走って帰る。何のためにここまでするんだろう。まだ翔が好きだから?ううん、違う。宮瀬君が好きなんだ。翔を諦める理由が欲しくて、ここまでするんだ。家に帰るとすぐ自分の部屋に入る。CDを流す。CDのケースに紙が挟んであった。宮瀬君の字だ。歌詞を書いてくれたんだ。歌詞を目で追って行く。『恋は一本の道。自分がどう進むかで道は変わる。立ち止まったらそこで終わる。道を誤らないように。止まらないように。フラれても終わりじゃない。進み続ければ道がある。だから諦めないで。終わらない恋の道を、一歩ずつ。それでも無理だったら、私は君を好きになる。』頬が冷たくて触ると、濡れていた。ああ、泣いていたんだ。多分、宮瀬君は『フラれても終わりじゃない』ってことを言いたいんだと思う。でもそんなところ目に止まらなかった。『それでも無理だったら、私は君を好きになる。』この歌詞に目が釘付け。いいのかな。私、宮瀬君のこと好きになっていいのかな。止まらない涙をほったらかしにして、宮瀬君が書いた紙を握りしめた。

次の日、宮瀬君にCDを返した。「答え分かった?」「………」「どうした?」「えっと、分かったけど。「けど?」「多分、宮瀬君が思ってる答えとは違う。」「……今日の放課後空いてる?」「空いてるよ。」「じゃ、そこで答え合わせしよう。」「うん」答え合わせ、か。宮瀬君と私がそれぞれ思っている答えは、違う。きっと宮瀬君は、まだ諦めるなって言う事が伝えたいんだと思う。でも、私は。その日は、一日が早く感じた。指定された公園に着くと、もう宮瀬君は来ていた。「ごめんなさい。遅くなっちやった。」「良いよ。俺も今来たとこだから。それより、答え合わせしようか。」「うん。」「富田さんから言って。」「……宮瀬君は、『フラれても終わりじゃない』って教えようとしてたんだよね。違う?」違うと言って欲しかった。好きになってもいいよ、って言って欲しかった。「………」正解ということなの?違うって言ってよ。黙ったままの宮瀬君を見て、今言わなければ、と思った。絶対後悔する、って。考えを少し巡らせて、声を発する。「私も、それが正解だと思う。でも、それは私の回答じゃない。私は。私は、『それでも無理だったら、私は君を好きになる』が正解だと思う。翔のことを諦めて、君を、宮瀬君を好きになりたい。……ハズレ、だよね。」「マジか。」「え?」「いや、絶対分からないと思ったのに。」「どういうこと?」「正解。」「……え?」「だから、それが正解だよ。」「……嘘。」「嘘じゃないよ。好きで、でもフラれて。俺の勘違いかもしれないけど、富田さんは『諦める理由が欲しい』って顔してた。そんな富田さんを見て、早く他の誰かを好きになればいいのにって思ってた。……思ってるうちに、俺を好きになればいいのにって。そればかり、思うようになって。」「そう、なの?」「うん。だから、正解。俺を好きになっていいよ。いや、俺を好きになって。俺、富田さんが、亜依のことが好きだから。」「‼宮瀬君。」「奏多」「え?」「俺のこと、下の名前で呼んでよ。」「か、奏多。私も、奏多のことが好き!付き合って下さい!」正直、この言葉を伝えるのは怖かった。翔に、フラれたから。宮瀬君の、いや奏多の顔を見ると笑っていた。ポーカーフェイスの奏多が、優しく笑っていた。「大正解。よくできました。こちらこそ、よろしく。」気づけば奏多の腕の中にいた。奏多は私を抱きしめて、「大好きだよ、亜依。」と囁いた。恥ずかしいけど、「私も。大好き。」と答える。『諦めても道は続く』って歌詞を付け足したほうがいいな、と思った。それぐらい、奏多を好きになった。幸せだな、と思った。 end