俺は、久しぶりに帰って実家に若干緊張しつつもインターホンを押した。少しの間、立っているとドアがゆっくりと開き、肩辺りまで延びた黒髪に緑色の瞳という俺と同じ髪と目の色をした少女が出てきた。

「…朔(さく)兄!?」

「久しぶりだね、氷翠」

俺の名前は、若竹 朔。氷翠の3つ上の兄(現在20歳)で魔導師をしている。魔導師とは、魔法で人を喜ばせたり、魔法を他の人に教える仕事をしている。

「朔兄、入ってよ!」

氷翠は、見慣れない笑顔で俺を見た。それに違和感を覚えながらも氷翠の後に続いて家に入った。氷翠はそのまま部屋に入って行き、俺はリビングに行った。リビングにいた父と母は、俺を見ると「おかえり」と微笑む。

「ただいま」とあいさつをすると、俺は氷翠の部屋の前に行き、ドアをノックした。

「……朔兄か。入って良いよ」

誰とも言っていないのに、俺だと分かるなんてすごいな…。

俺は、氷翠の部屋に入る。部屋の中は、俺が家を出た時とはあまり変わっておらず、参考書が増えているだけだった。

「……氷翠、まだ勉強してたの?」

「うん」

氷翠と俺は、小さい頃からずっと勉強を強制されてきていた。昔はそれが普通なんだと思っていたが、家が普通ではないと気づいた時、氷翠が『もう勉強したくない!』と両親に言ったことがある。

しかし、両親はそれでも氷翠と俺に勉強させたがっていた。そんな両親が嫌いで家を出たのだが、たまには氷翠の顔を見ておきたい、と今回は帰って来ていたのだ。

氷翠はふとシャーペンを握っていた手を止め、俺を見つめた。何かを言いたげだ。

「ねぇ、朔兄」

「何?」

「実はさ――」

俺は、氷翠の話を聞いて驚きを隠せなかった。