ガッタン



鍵を借りた時に、‘ 換気のために窓を開けておいて’と先生に言われたから、入って早々窓へ寄る。



今日もいる。
けど、ちょっといつもと違う。



寝てる・・・?



首をこっくりこっくりとさせている先輩。
かわいい。



思わずニコリと笑ってしまう。



さて、練習、練習。
いつも通り、先輩を盗み見ながらピアノを開けてカバンから譜面を取り出す。



朝は、練習する人が少ないから雑音が少なくて自分の音だけに集中できる。



いつもと違う、鳥の鳴き声とか風邪で揺れる木々の音が聞こえるけど心地が良い。





「愛の夢、だね。」





部分練習から初めて、1曲通し終えて、チェックを入れようとシャーペンを握った時、静かな世界に音が弾かれた。



びっくりした。



声こそ出なかったものの、つまんだペンは落ち、当たった鍵から短い音を奏でた。
それはまるで、私の声の代わりとでも言うように。