9話



 その日は、どこか彼女の様子が違っていた。
 黒葉が来てから約一ヶ月が経ったある日。
 彼女は、呆然としている事が多かった。


 いつもはテキパキと家事をこなす黒葉だったけれど、葵音が見ていると空を見つめて過ごす事が多かったのだ。

 最近は葵音があげたシルバーアクセサリーの本を読んでいる事が多かったが、それもただ手に持っているだけで読むことはほとんどない。


 「黒葉?」
 「…………。」
 「おい、黒葉っ!」
 「あ、はい!あ、おやつの時間ですか?今日はまだ準備出来てなくて……。」

 
 葵音が普段より大きな声で彼女を呼ぶと、黒葉は体をビクッとさせて意識をやっと、こちらに向けた。
 葵音は、心配そうに彼女の顔を覗き込む。


 「どうした?体調でも悪いのか?」
 「え………。そんなことないですよ?」
 「………今日はボーッとしてるからな。何かあったのかと思ったんだ。」
 「………すみません。少し、考え事をしていました。」
 「ならいいけど。体調が悪くなったら休めよ。」
 「ありがとうございます。」


 そんな話しをしたのが昼間だったけれど、その後も黒葉は同じ状態で過ごしていたのだった。