それからCDを大量に持ってきてサインをねだる朝陽と話したり、興奮する朝陽を陽菜が焦って窘めたりとしているうちに時間が過ぎ、勇人はお暇することになった。

「すみません、越名さん。
朝陽が無理矢理引き止めて……」

まだドアを開けていない玄関の内側で、陽菜は眉を八の字にして朝陽の言動に頭を下げていた。

「いや、楽しかった。
それに君も、少しは俺に慣れてくれたようだ」

ほんの少し柔らかく微笑んだ勇人に、陽菜は頬を染めながら両手で顔を隠した。

「い、家だったらどうしても気持ちが緩んじゃって……」

「その方がいい。じゃあ、また」

「は、はいっ。お気をつけて!ま、また……?」

ドアを開けて出ていく勇人の『また』と言う言葉に僅かに引っ掛かりを感じて首を傾げた陽菜の隣を、朝陽は上着を片手に急いで通りすぎた。

「陽菜姉!勇人さん送ってくる!」

「え、あ、朝陽!?」

言うや否や適当に靴を履き乱暴にドアを開けて家を出ていく朝陽。
そんな疾風のような朝陽を陽菜は呆然としながら成す術もなく見送った。