【4月8日(水)】
新しい学校での3年生の新学期が始まった。始業式が6日で7日が入学式だったので、転校してきた私は今日8日からすぐに授業ということになった。せっかく圭さんが高校へ通わせてくれたのだから、一生懸命に勉強すると決めた。

一日目の授業を終えて帰宅した。圭さんが帰宅すると、すぐに学校の報告をする。クラスは3年1組でほぼ男女半々、担任は佐藤先生になって、急に家庭の事情で転校してきたこと、制服はしばらく前の学校のものを着ていることなどを教室の皆に話してくれたこと、また、困ったことがあったら何でも相談するように言われたことなどを話した。

「担任が佐藤先生でよかった。事情をよく分かっていてくれるから」

「また、学校に行けるとは思っていませんでした。ありがとうございました」

「勉強頑張ってね。進学のことも考えてみて、大丈夫だから」

「明日から、お弁当を作って行きますけど、圭さんの分も作って良いですか」

「お弁当か。お願いします。楽しみだ」

「気に入ってもらえると良いけど食べてみてください」

「それから、僕が少し前まで使っていたパソコンがあるけど使ってみないか? この前、新しいのに買い替えたところなので、中古だけど最新のWindows10が入っているよ」

「パソコンを使ってみたいと思っていたので是非使わせて下さい。でも使い方が分からないので教えてもらえますか?」

「もちろん、教えてあげる。ここのマンションには光ケーブルが入っていて、各部屋には、ネット接続用の端子があるけど、僕はそれを部屋のどこで使っても無線で繋がるようにしているから便利だよ。ネットの料金は家賃に含まれているから、使い放題で心配しなくてもよい。寝室のプリンターにも無線で繋がるから、プリンターも自由に使って良いよ」

「すごいですね。今まで知らなかったわ」

「じぁや、折角だから、夕食の後に使い方を教えてあげる。僕の書棚に定期購読しているパソコンの雑誌が1年分ある。初心者向けの使い方の記事もあるからそれを読むと勉強になるよ」

圭さんは、パソコンの使い方を教えてくれた。私は教えて貰うのが1回で済むように、メモを取ったり、分からないところは遠慮なく質問した。大体の操作方法はすぐに分かった。

本棚の雑誌の場所も教えてもらったので、あとは何とか一人でやれる。後から役に立つと思うので、早くマスターしたい。

それから圭さんは生活費として3万円が入った財布を渡してくれた。

「これは、当面の二人の生活費として使って下さい。食べ物や洗剤などを買ってくれれば良い。残りが1万円になったら補充するから、言ってほしい。万一の時のために、最低1万円はいつも財布に入れておくこと」

「すごく慎重なんですね」

「万一の時はお金が一番頼りになる。その時は遠慮なくその1万円を使っていい。それから、これは当面の美香ちゃんのお小遣い2万円。足りなくなったら遠慮しないで言ってほしい」

「こんなに必要ないです」

「とりあえず持っていて、学校で必要になったものを自由に買って良いから。まず、通学定期3か月分を買って下さい。家事をしてもらうのだから、もっとお手当を払わなければいけないけど、もう少し様子を見させてくれる」

「分かりました。何から何までありがとうございます」

圭さんは結構細かいところまで考えてくれている。信頼できる人だ。

【4月9日(木)】
9日の朝、私は張り切ってお弁当を作った。圭さんはお昼に開けたら後輩の山本君にまるで愛妻弁当ですねとからかわれたけど悪い気がしなかったと言ってくれた。とてもおいしかった、毎日こんな弁当が食べられるなんて、美香ちゃんと同居してよかったとも。

私は、それからしばらくは、帰宅すると家事の合間にパソコンを練習した。雑誌を見ながら練習をしたけど、1週間もするとなんとか使いこなせるようになった。

ネットでいろんなことが調べられることが分かったし、最新のニュースも読めるし、天気予報も。世界が広がった。圭さんに感謝。

新学期が始まって、通学を始めてからは二人の生活にもリズムができてきた。朝は、私が5時30分に起床、朝食とお弁当を作る。同時に洗濯を開始。

6時になると圭さんが起床して身支度を整えて、6時30分に二人で朝食を食べる。7時過ぎにお弁当を持って、圭さんが出勤。その後、私が食事の後片付けと洗濯物を干して、8時前に登校して8時30分から授業が始まる。

3時ごろに授業が終わり、帰り道にスーパーで買い物をして、4時前には帰宅する。クラブ活動はしない。それから、洗濯物の取り込み、掃除、夕食の準備、予習復習。

圭さんの帰宅は8時ごろ、帰ると二人で食事。遅い時は食べていてと言ってくれるけど、一人じゃおいしくないので、よっぽど遅くならないかぎり待っている。そのせいか圭さんの帰宅時間が段々早くなってきた。

食事が終わると後片付けと同時にお風呂の用意。圭さんが先に入り、その後、私が入る。お風呂から上がると、二人それぞれ適当に時間を過ごして、11時までには就寝。

始めのころは要領がつかめなかった。圭さんが手伝おうと言ってくれたけど、私の仕事だからダメ、邪魔になるから休んでいて下さいと言って、きっぱり断った。

しばらくすると、要領が分かってきたので、余裕をもってできるようになってきた。圭さんも安心して、見ているだけになった。

土曜日は原則、授業がなくお休み。それで土日は二人とも起床は7時か8時。朝食後は二人で部屋を整理・掃除して、それぞれ自由時間。二人の都合が合えば、外出・買い物といったところ。

生活にリズムができてくると、学校や家事に気がとられるのと疲れるので、悪い夢を見ることがなくなった。それに遠慮もあって、夜、圭さんのところへ行くことがなくなった。圭さんは入ってこないと何となく寂しいのか、遠慮しないで良いんだよと言ってくれた。

それで金曜日の夜は、悪い夢を見そうだからとか言って布団に入れてほしいと部屋に行く。圭さんは良いよといって迷惑そうな素振りも見せないで入れてくれるので、良いんだろう。後ろからそっと抱いて寝てくれるだけだけど、背中が温かくて、本当に安心して眠れる。