「あれ。茉咲先輩。翔平先輩は?」
「そのことなんだけど……」

事情を説明しようと口を開けたら、誰かにグイっと腕を引かれた。

「……どこ、行くんだよ。茉咲」

後ろから抱きしめられる。息を弾ませながら囁かれるその声は……。

「翔平?」

振り返ると、あたしの大好きなひとが焦ったような苦しそうな表情であたしの顔を覗き込む。

「茉咲。お前は俺の女だろ」

言葉はどこまでも強気なのに、彼の目が一瞬泣きそうに見えた。

何故、あなたがここに居るの?
何故、そんなに苦しそうなの?

「翔平……?」
「何、他の男と出掛けようとしてんの?」

剥き出しの独占欲。
射抜くような視線があたしを責める。

「……どこにも行かないよ。翔平と一緒にいたいもん」

焦る翔平と困惑するあたしを見て、プッと吹き出したのは矢部っちだった。

「ホント、翔平先輩って茉咲先輩が大好きっすよね」
「はぁ!?」

矢部っちがニコニコ笑いながら、
楽しそうに言う。思わず叫んだ翔平の声に驚き、後ろを振り返ると真っ赤な顔をした翔平がいた。