試験の日以外はほとんど身に付けていなかった腕時計をする習慣ができた。

腕に程よい重さを感じていると、前向きになれた。


そしてクリスマスから2週間後、高校の校門の前で私を待ち伏せする人物の姿が見えた。

有明沙莉さんに此処で待ち伏せをされてからは毎日警戒していたから、すぐに気付くことができた。



「よっ」


そう気軽に話しかけてきた人物は、有明沙莉さんではなくて。


「崎島…」


「話があるんだけど、いいかな?塾の時間までには終わらすから」


不真面目な髪色に不釣り合いな進学校の制服を身に纏った崎島は耳のピアスを弄びながら言った。


「珈琲、1杯だけ付き合って?お願いします」


ここ数週間は崎島からのアピールはなく、油断していた。


「うん……」


いつも自習室で過ごす時間、崎島とお茶するだけだ。ほんの少しの間だけだから、そう決意して頷いた。


心配させてしまうと申し訳ないので、菱川先生には連絡を入れなかった。