2.涙

幼い頃から絵を描くのが好きだった。

年賀はがきのイラストは幼稚園の時から私の担当で、小学一年の時だったか戌年の時に描いたわが家のポチは親類達から大絶賛だった。

いつの間にか自分が唯一褒めてもらえるのが絵だということに気付き、高校卒業後は芸大に進もうと思っていたけれど、担任の先生に断固として止められる。

『芸術方面に進めるのは両親が芸術家の子だけだ』

うちの父はごく普通のサラリーマンだったし、母はごく普通の専業主婦だったからもちろんそこで私の芸大への進路は遮断された。

どうしてあの時担任の反対を押し切って進まなかったんだろうって後悔するけれど、今となっては既に時遅しなわけで。

普通の四年生大学を出て、小さな玩具メーカーに就職した。

社内で毎年行われる新玩具企画の募集で、ようやく自分の得意の絵が生かせると思った。

何度か挑戦するも、企画が通るのは難しく優秀賞止まりだった私をいつも励ましてくれた企画部の先輩、高橋雄弥に恋をする。

奥手の私にとって初めてお付き合いした彼氏だった。

彼はとりわけイケメンではなかったけれど、笑顔がとても愛嬌のある優しい人。

仕事も真面目にこなし、誰からも慕われていた。